した。
「おつう、汝《われ》此《こ》の蕎麥《そば》つ粉《こな》出《だ》して遣《や》つたのか」勘次《かんじ》はおつぎに聞《き》いた。
「俺《お》ら出《だ》すめえな」おつぎは何《なに》も解《かい》せぬ容子《ようす》でいつた。
「蕎麥《そば》ツ掻《かき》なんぞにしたつて詰《つま》りやしねえ、碌《ろく》に有《あ》りもしねえ粉《こな》だ」彼《かれ》は呟《つぶや》いた。それから彼《かれ》は又《また》
「此《こ》れも、はあ、有《あ》りやしねえ」醤油《しやうゆ》の罎《びん》を透《すか》して其《それ》から振《ふ》つて見《み》ていつた。
「おとつゝあ、それにやねえのがんだぞ」おつぎは打《う》ち消《け》した。
「えゝから、此《こ》れつ切《きり》ぢやきかねえのがんだから」勘次《かんじ》はおつぎを呶鳴《どな》りつけた。彼《かれ》は更《さら》に袋《ふくろ》の蕎麥粉《そばこ》を桶《をけ》へ明《あ》けて畢《しま》つて猶《なほ》ぶつ/\して居《ゐ》た。手《て》ランプが薄闇《うすぐら》く點《とも》された時《とき》卯平《うへい》はのつそり歸《かへ》つて來《き》た。彼《かれ》は膳《ぜん》に向《むか》はうともしないが火鉢《ひばち》の前《まへ》にどさりと坐《すわ》つた儘《まゝ》、例《れい》の蟠《わだかま》りの有相《ありさう》な容子《ようす》をしては右手《うしゆ》の人《ひと》さし指《ゆび》を掛《か》けてぎつと握《にぎ》つた煙管《きせる》を横《よこ》に噛《か》んで居《ゐ》た。
「おつう、汝《われ》まつと此處《ここ》さ火《ひい》とつてくんねえか」卯平《うへい》はそれだけいつて依然《いぜん》として火《ひ》もない煙管《きせる》を噛《か》んだ。おつぎは麁朶《そだ》を折《を》つて藥罐《やくわん》の下《した》を燃《も》やしてやつた。藥罐《やくわん》が鳴《な》り出《だ》した時《とき》卯平《うへい》は懶《ものう》さ相《さう》な身體《からだ》をゆつさりと起《おこ》して其處《そこ》らを頻《しき》りに探《さが》しはじめた。
「何《なん》でえ爺《ぢい》」おつぎは直《すぐ》に聞《き》いた。
「うむ、袋《ふくろ》よ」卯平《うへい》は極《きは》めて簡單《かんたん》にいつた。
「此《こ》れだんべ爺《ぢい》、蕎麥《そば》つ粉《こな》へえつてたのな、俺《お》らどうしたんだか知《し》んねえから桶《をけ》ん中《なか》さ明《あ》けて置《お》いたつきや、そ
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