んじ》は風呂敷《ふろしき》から袋《ふくろ》を出《だ》してお品《しな》の枕元《まくらもと》へ置《お》いて
「米《こめ》これだけ殘《のこ》つたから持《も》つて來《き》たんだ、あつちに居《ゐ》ればえゝが幾日《いつか》でも明《あ》けると炊《た》かれつちやつても仕《し》やうねえかんな、そんぢや此《こ》りやおつうげやつて置《お》くんだ」
勘次《かんじ》は米《こめ》の小《ちひ》さな袋《ふくろ》をおつぎへ渡《わた》した。
「袋《ふくろ》なんぞ又《また》何《なん》だと思《おも》つたよ」お品《しな》は輕《かる》くいつた。
「それでも薪《まき》は持《も》つて來《く》る譯《わけ》にも行《い》かねえから置《お》いて來《き》つちやつた」勘次《かんじ》は自《みづか》ら嘲《あざけ》るやうに目《め》から口《くち》へ掛《か》けて冷《つめ》たい笑《わらひ》が動《うご》いた。
「お品《しな》、足《あし》でもさすつてやんべぢやねえか」勘次《かんじ》はお品《しな》の裾《すそ》の方《はう》へ行《い》つた。
「えゝよ勘次《かんじ》さん、俺《お》ら今日《けふ》は日《ひ》のうちから心持《こゝろもち》えゝんだから、先刻《さつき》もおつうが揣《さす》つてやんべなんていふもんだから少しもやつてくろつて云《ゆ》つた處《ところ》だよ、こんぢや二三日《にさんち》も過《す》ぎたら勘次《かんじ》さんは又《また》行《い》けべえよ」お品《しな》は快《こゝろ》よげにいつた。
「今夜《こんや》はひどく心持《こゝろもち》えゝんだよ、えゝよ本當《ほんたう》だよ勘次《かんじ》さん、お前《めえ》草臥《くたびれ》たんべえな」更《さら》にお品《しな》は威勢《ゐせい》がついていつた。
夜《よ》は深《ふ》けた。外《そと》の闇《やみ》は氷《こほ》つたかと思《おも》ふやうに只《たゞ》しんとした。蒟蒻《こんにやく》の水《みづ》にも紙《かみ》の如《ごと》き氷《こほり》が閉《と》ぢた。
三
次《つぎ》の朝《あさ》霜《しも》は白《しろ》く庭葢《にはぶた》の藁《わら》におりた。切干《きりぼし》の筵《むしろ》は三枚《さんまい》ばかり其《その》庭葢《にはぶた》の上《うへ》に敷《し》いた儘《まゝ》で、切干《きりぼし》には氷《こほり》を粉末《ふんまつ》にしたやうな霜《しも》が凝《こ》つて居《ゐ》て、東《ひがし》の森《もり》の隙間《すきま》から射《さ》
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