だ口《くち》に、さうして醤油《しやうゆ》の味《あぢ》を區別《くべつ》するまで發達《はつたつ》した舌《した》を持《も》たない與吉《よきち》は卯平《うへい》が遠《とほ》く齎《もたら》したと聞《き》かせられた程《ほど》には感《かん》じなかつたのである。
「其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》こといふもんぢやねえ、そんだら※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、244−8]《ねえ》げよこしつちめえ」おつぎは小《ちひ》さな聲《こゑ》でいつて尻目《しりめ》に掛《か》けた。與吉《よきち》はさういひ乍《なが》ら手《て》にした丈《だけ》はぽり/\と噛《か》んだ。乾燥《かんさう》した響《ひゞき》が三|人《にん》の口《くち》に鳴《な》つた。
卯平《うへい》は幾杯《いくはい》も只《たゞ》茶《ちや》を啜《すゝ》つた。壯健《たつしや》だといつても彼《かれ》は齒《は》がげつそりと落《お》ちて軟《やはら》かな物《もの》でなければ噛《か》めなくなつて居《ゐ》た。卯平《うへい》は又《また》おつぎへ醤油《しやうゆ》の罎《びん》を出《だ》して
「俺《お》れ持《も》つて來《く》ればなんぼでも譯《わけ》ねえんだが荷物《にもつ》があるもんだから、此《こ》れつ切《きり》しか持《も》つちや來《き》ねえつちやつた、此《こ》んでも俺《お》ら藏《くら》ぢや此《この》上《うへ》はねえんだ、炊事《かしき》は汝《われ》すんだんべから、汝《われ》そつちへ藏《しま》つて置《お》けな」
「大變《たえへん》だつけな爺《ぢい》、荷物《にもつ》あんのになあ、此《こ》れだけぢや暫《しば》らくあんべよ」おつぎは罎《びん》を柱《はしら》の傍《そば》へ置《お》いた。
「荷物《にもつ》はさうでもねえが、身體《からだ》利《き》かねえでな、どうも」卯平《うへい》は煙管《きせる》を噛《か》んだ。
「爺《ぢい》はどうしたつぺ、お飯《まんま》たべたんべか」おつぎは敢《あへ》ていひ掛《か》けるといふ態度《たいど》でもなく勘次《かんじ》に向《むか》つていつた。
「おらどつちでもえゝや」卯平《うへい》は少《すこ》し遠慮《ゑんりよ》を交《まじ》へていつた。
「どつちでもえゝつて腹《はら》減《へ》つちやしやうあんめえな」おつぎは茶碗《ちやわん》と箸《はし》とを棚《たな》から卸《おろ》し
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