》つた。おつぎは戸《と》の隙間《すきま》から覗《のぞ》いて
「爺《ぢい》見《み》てえだな、おとつゝあ」と小聲《こごゑ》で告《つ》げた。それから勘次《かんじ》も覗《のぞ》いて、鍵《かぎ》を外《はづ》して這入《はひ》つた。與吉《よきち》は見識《みし》らぬ爺《ぢい》さんが居《ゐ》るので羞《はに》かんでおつぎの後《うしろ》へ隱《かく》れた。
「爺《ぢい》だ」とおつぎは叫《さけ》んで卯平《うへい》の側《そば》へ寄《よ》つた。
「爺《ぢい》は今日《けふ》來《き》たのか」おつぎの挨拶《あいさつ》に續《つゞ》いて
「おとつゝあ遲《おそ》かつたな」勘次《かんじ》もいつた。
「出《で》だすのもそんなに早《はや》かなかつたつけが、暫《しばら》く歩《ある》きつけねえ所爲《せゐ》かなんぼにも足《あし》が出《で》ねえで、かういに遲《おそ》くなる積《つもり》もなかつたつけが」卯平《うへい》は重《おも》い口《くち》でいつた。
「餘《よ》つ程《ぽど》待《ま》つてゝか爺《ぢい》は」おつぎは麁朶《そだ》を折《を》り足《た》しながらいつた。
「火《ひい》吹《ふ》つたけたばかりよ」卯平《うへい》は其《そ》の窪《くぼ》んだ茶色《ちやいろ》の眼《め》を蹙《しか》めるるやうにして
「おつうも大《え》かくなつたな、途中《とちう》でなんぞ行逢《いきや》つちや分《わか》んねえな、そんだが汝《わ》りや有繋《まさか》俺《お》れこた忘《わす》れなかつたつけな」
「忘《わす》れめえな爺《ぢい》は」おつぎは卯平《うへい》に對《たい》してこそつぱい一|皮《かは》が間《あひだ》を隔《へだ》てゝ居《ゐ》るやうな感《かん》じがして居《ゐ》ながら、其《そ》の癖《くせ》の甘《あま》えた樣《やう》な舌《した》でいつてちう/\と鳴《な》り出《だ》した藥罐《やくわん》へ手《て》を掛《か》けた。卯平《うへい》はおつぎの挨拶《あいさつ》を今更《いまさら》の如《ごと》くしみ/″\と嬉《うれ》しく感《かん》じた。卯平《うへい》はお品《しな》が死《し》んで三|年目《ねんめ》の盆《ぼん》に來《き》た時《とき》不器用《ぶきよう》な容子《ようす》の彼《かれ》がどうして思《おも》ひついたかおつぎへ花簪《はなかんざし》を一つ買《か》つて來《き》た。十七のおつぎがどれ程《ほど》それを喜《よろこ》んだか知《し》れなかつた。おつぎは決《けつ》してそれを忘《わす》れなかつた
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