財布《せえふ》にやまあだ有《あ》るよ、七日《なぬか》ばかり働《はたら》えてそれでも二|兩《りやう》は殘《のこ》つたかんな、そんで又《また》行《い》く筈《はず》で前借《さきがり》少《すこ》しして來《き》たんだ、こつちの方《はう》から行《い》つてる連中《れんぢう》が保證《ほしよう》してくれてな」勘次《かんじ》は誇《ほこ》り顏《がほ》にいつた。
「俺《お》ら今日《けふ》見《み》てえだらえゝが、酷《ひど》く行逢《いきや》ひたくなつてなあ」お品《しな》は俯伏《うつぶ》した額《ひたひ》を枕《まくら》につけた。
「どうせ此處《ここ》らの始末《しまつ》もしねえで行《い》つたんだから、一遍《いつぺん》は途中《とちう》で歸《けえ》つて見《み》なくつちや成《な》らねえのがだから同《おな》じ事《こと》だよ」勘次《かんじ》はお品《しな》を覗《のぞ》き込《こむ》やうにしていつた。
「それでも俵《たはら》にしちや置《お》いたな」勘次《かんじ》は壁際《かべぎは》の麥藁俵《むぎわらだはら》を見《み》ていつた。お品《しな》はまだ俯伏《うつぶ》した儘《まゝ》である。
「あつちに居《ゐ》ちや錢《ぜに》は要《え》らねえな、煙草《たばこ》一|服《ぷく》吸《す》ふべえぢやなし、十五|日目《にちめ》が晦日《みそか》でそれまでは勘定《かんぢやう》なしで其《その》間《あひだ》は米《こめ》でも薪《まき》でもみんな通帳《かよひ》で借《か》りて置《お》く位《くれえ》なんだから、十五|日目《にちめ》に成《な》らなくつちや財布《せえふ》も膨《ふく》れねえが、又《また》百《ひやく》でも出《で》つこはねえかんな」勘次《かんじ》は更《さら》に出先《でさき》のことをお品《しな》へ聞《き》かせた。
「米《こめ》ばかり炊《た》えても毎日《まいにち》一|升《しよう》づゝは要《え》る位《くれえ》だから骨《ほね》も隨分《ずゐぶん》折《を》れんが出《で》せえすりや二|貫《くわん》と三|貫《ぐわん》は殘《のこ》せつから、歸《けえ》るまでにや俺《おれ》もどうにか成《な》ると思《おも》つてんのよ、さうすりや鹽鮭《しほびき》位《ぐれえ》は買《か》あことも出來《でき》らな」
「そんぢやよかつた、土方《どかた》なんちや碌《ろく》な奴等《やつら》は居《え》ねえつていふからどうしたかと思《おも》つてな」お品《しな》は首《くび》を擡《もた》げた。
「そんな奴等《や
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