れ抑《つか》めえた處《とこ》なんだよ」
「えゝからガラスでもおつ缺《か》かねえやうにしろえ、此方《こつち》のおつかさまに怒《おこ》られつから」
「そんでも店臺《みせでえ》は四つ足《あし》へ何《なに》か穿《は》いてら、土鍋《どなべ》に片口《かたくち》に皿《さら》だ、どれも/\能《よ》く打《ぶ》つ缺《か》けてらあ」
「何處《どこ》らか歩《ある》いて來《き》たと見《み》えて足《あし》埃《ほこり》だらけだと」二三|人《にん》の聲《こゑ》で戯談《ぜうだん》を返《かへ》した。家《いへ》の内外《うちそと》のむつとした空氣《くうき》が益《ます/\》ざわついた。店臺《みせだい》へは暑《あつ》い頃《ころ》には蟻《あり》の襲《おそ》ふのを厭《いと》うて四つの足《あし》へ皿《さら》や丼《どんぶり》の類《るゐ》を穿《は》かせて始終《しじう》水《みづ》を湛《たゝ》へて置《お》くことを怠《おこた》らないのであつた。
「どうれ、誰《だれ》も寄《よ》せねえけりや俺《お》れでも寄《よ》せてんべかえ」後《うしろ》の方《はう》から一人《ひとり》進《すゝ》んで來《き》たものがあつた。
「只《たゞ》ぢや駄目《だめ》だぞ」痘痕《あばた》の爺《ぢい》さんは直《す》ぐに要《い》らぬことをいつた。
「そんぢや困《こま》つたなあ、おめえどうした婆《ばあ》さまこと死口《しにぐち》でも寄《よ》せて見《み》ねえか」
「俺《お》ら厭《や》だよ、待《ま》つてつから早《はや》く來《き》てくろなんて云《ゆ》はれた日《ひ》にや縁起《えんぎ》でもねえから」爺《ぢい》さんは爪《つめ》で頭《あたま》を掻《か》いた。
「酷《ひど》くおめえ近頃《ちかごろ》ぽさ/\しつちやつてんだな、あゝだ婆《ばゞあ》でも焦《こが》れてる所爲《せゐ》ぢやあんめえ、頭髮《あたま》まで拔《ぬけ》た樣《やう》だな」剽輕《へうきん》な相手《あひて》は爺《ぢい》さんの頭《あたま》へ手《て》を掛《かけ》てゆさ/\と動《うご》かした。乘地《のりぢ》に成《な》つて居《ゐ》た爺《ぢい》さんは少《すこ》し白《しろ》い膜《まく》を以《もつ》て掩《おほ》はれた樣《やう》な眼《め》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》つて稍《やゝ》辟易《へきえき》した。
「大豆打《でえづぶち》にかつ轉《ころ》がつた見《み》てえに面中《つらぢう》穴《めど》だらけにしてなあ」剽輕《へうきん》な
前へ 次へ
全478ページ中252ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング