《おほ》きな荷物《にもつ》と袋《ふくろ》へ入《い》れた三味線《さみせん》とが置《お》いてあつて淋《さび》しく見《み》えて居《ゐ》た。只《たゞ》一人《ひとり》の巫女《くちよせ》が彼等《かれら》に特有《とくいう》の態度《たいど》を保《たも》つて正座《しやうざ》を張《は》つて、其《そ》の何時《いつ》でも放《はな》さない荷物《にもつ》を前《まへ》へ置《お》いてしやんと坐《すわ》つて居《ゐ》るのであつた。表《おもて》には村落《むら》の者《もの》が漸《やうや》く殖《ふ》えて土間《どま》から座敷《ざしき》へ上《あが》る者《もの》もあつた。彼等《かれら》は理由《わけ》もなしに只《たゞ》騷《さわ》ぎはじめた。彼等《かれら》は沼邊《ぬまべ》の葦《あし》のやうに集《あつま》れば互《たがひ》に只《たゞ》ざわ/\と騷《さわ》ぐのである。巫女《くちよせ》はかなりの婆《ばあ》さんであつたので、白粉《おしろい》つけた瞽女等《ごぜら》に向《むか》つて揶揄《からか》ふ樣《やう》な言辭《ことば》は彼等《かれら》の間《あひだ》には發《はつ》せられなかつた。
「どうしたえ、口寄《くちよせ》一《ひと》つやつて見《み》ねえかえ」大勢《おほぜい》の中《うち》から切《き》り出《だ》したものがあつた。葦《あし》の葉末《はずゑ》が微風《びふう》にも靡《なび》けられる樣《やう》に此《この》一|語《ご》の爲《ため》に皆《みな》ぞよ/\と復《また》騷《さわ》いだ。群集《ぐんしふ》の中《うち》にはおつぎも交《まじ》つて居《ゐ》た。若《わか》い衆等《しゆら》は先刻《さつき》からそれに注目《ちうもく》して居《ゐ》たが
「どうした、彼奴等《あいつら》こと寄《よ》せてんべぢやねえか」
「おつぎこと出《だ》してんべぢやねえか」彼等《かれら》はひそ/\と竊《ひそか》に喋《しめ》し合《あは》せた。
「寄《よ》せてんべえと」群集《ぐんしふ》の後《うしろ》の方《はう》から呶鳴《どな》つた。
「そんぢや此方《こつち》へ出《で》さつせえな」店《みせ》の女房《にようばう》はいつた。群集《ぐんしふ》は一|時《じ》に威勢《ゐせい》がついて巫女《くちよせ》の膝《ひざ》近《ちか》くまでぎつしりと座敷《ざしき》を塞《ふさ》いだ。勘次《かんじ》もおつぎも座敷《ざしき》に窮屈《きうくつ》な居《ゐ》ずまひをして居《ゐ》た。店《みせ》の女房《にようばう》は少《すこ》し
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