》の筋《すぢ》が痛《いた》んだので二三|日《にち》仕事《しごと》に出《で》られなかつた。それから六七|日《にち》たつて烈《はげ》しい西風《にしかぜ》が吹《ふ》いた。勘次《かんじ》は薄《うす》い蒲團《ふとん》へくるまつて日《ひ》の中《うち》から冷《ひ》えてた足《あし》が暖《あたゝま》らなかつた。うと/\と熟睡《じゆくすゐ》することも出來《でき》ないで輾轉《ごろ/\》して長《なが》い夜《よ》を漸《やうや》く明《あか》した。
 其《そ》の次《つぎ》の日《ひ》彼《かれ》は硬《こは》ばつたやうに感《かん》ずる手《て》を動《うご》かして冷《つめ》たいシヤブルの柄《え》を執《と》つて泥《どろ》にくるまつて居《ゐ》た。さうして居《ゐ》る處《ところ》へ村《むら》の近所《きんじよ》のものがひよつこり尋《たづ》ねて來《き》たので彼《かれ》は狐《きつね》にでも魅《つま》まれたやうに只《たゞ》驚《おどろ》いた。近所《きんじよ》の者《もの》は大勢《おほぜい》が只《たゞ》泥《どろ》のやうになつて動《うご》いて居《ゐ》るのでどれがどうとも識別《みわけ》がつかないで困《こま》つたといつて、勘次《かんじ》に逢《あ》うたことを反覆《くりかへ》して只《たゞ》悦《よろこ》んだ。途中《とちゆう》へ一晩《ひとばん》泊《とま》つたといふやうなことをいつて勘次《かんじ》が心《こゝろ》忙《せは》しく聞《き》く迄《まで》は理由《わけ》をいはなかつた。勘次《かんじ》は漸《やうや》くお品《しな》に頼《たの》まれて來《き》たのだといふことを知《し》つた。勘次《かんじ》はお品《しな》が病氣《びやうき》に罹《かゝ》つたのだといふのを聞《き》いて萬一《もし》かといふ懸念《けねん》がぎつくり胸《むね》にこたへた。さうして反覆《くりかへ》してどんな鹽梅《あんばい》だと聞《き》いた。噺《はなし》の容子《ようす》ではそれ程《ほど》でもないのかと思《おも》つても見《み》たが、それでも勘次《かんじ》は口《くち》を利《き》くにも唾《つば》が喉《のど》からぐつと突《つ》つ返《かへ》して來《く》るやうで落付《おちつ》かれなかつた。
 其《そ》の日《ひ》の夜中《よなか》に彼等《かれら》は立《た》つた。勘次《かんじ》は自分《じぶん》も急《いそ》ぐし使《つかひ》を疲《つか》れた足《あし》で歩《ある》かせることも出來《でき》ないので霞《かすみ》ヶ|浦《うら
前へ 次へ
全478ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング