《ゐ》た。徳利《とくり》が三四|本《ほん》膳《ぜん》の前《まへ》に運《はこ》ばれた。
「お蔭《かげ》でどうも捗《はか》行《ゆ》きあんした。どうぞゆつくり行《や》つておくんなせえ」亭主《ていしゆ》は改《あらた》まつて挨拶《あいさつ》した。
「はい」と一|同《どう》が時儀《じぎ》をした。各自《かくじ》の膳《ぜん》の隅《すみ》へ一つ宛《づゝ》渡《わた》された茶呑茶碗《ちやのみぢやわん》へ酒《さけ》が注《つ》がれようとした時《とき》
「あれ待《ま》つてゝくんねえか」と内《うち》の女房《にようばう》が慌《あわ》てゝいつた。
「おとつゝあん、お竈樣《かまさま》忘《わす》れたつけべな」女房《にようばう》は竈《かまど》から飯《めし》の釜《かま》を卸《おろ》して布巾《ふきん》を手《て》にした儘《まゝ》いつた。
「さうだつけな、ほんに」亭主《ていしゆ》はいきなり一|本《ぽん》の徳利《とくり》を手《て》にして土間《どま》へおりた。竈《かまど》の上《うへ》の煤《すゝ》けた小《ちひ》さな神棚《かみだな》へは田《た》から提《さ》げて來《き》た一|把《は》の苗《なへ》が載《の》せてあつた。彼《かれ》は其《その》苗束《なへたば》へ徳利《とくり》から少《すこ》し酒《さけ》を注《つ》いだ。
「酒《さけ》そつちの方《はう》へたんと掛《か》けねえで貰《も》れえてえな」兼《かね》博勞《ばくらう》はけろりとした容子《ようす》をして戯談《じやうだん》をいつた。
「酒《さけ》飮《の》む者《も》な、さうだに惜《を》しいもんだんべか」おつぎはこつそりいつた。
「そんだつて酒《さけ》つちや人《ひと》の口《くち》さ入《せ》える樣《やう》に出來《でき》てんだから、それ證據《しようこ》にや俺《お》らが口《くち》さ入《せ》えりやすぐ利《き》くから見《み》ろえ」兼《かね》博勞《ばくらう》はいつた。亭主《ていしゆ》は又《また》苗束《なへたば》へ香煎《かうせん》を少《すこ》し振《ふ》り掛《か》けた。それは稻《いね》の花《はな》に模擬《なぞら》つたので、稻《いね》の花《はな》が一|杯《ぱい》に開《ひら》く樣《やう》との縁起《えんぎ》であつた。兼《かね》博勞《ばくらう》は其《そ》れを見《み》て急《きふ》に土間《どま》へ下《お》りて行《い》つた。
「どうれ、おめえ等《ら》饂飩粉《うどんこな》少《ちつ》と持《も》つて來《き》て見《み》せえ、
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