、24−7]《ねえ》が處《とこ》へでも來《き》て見《み》ろ」といひながら忙《せは》しくぽつと一燻《ひとく》べ落葉《おちば》を燃《もや》して衣物《きもの》を灸《あぶ》つて與吉《よきち》へ着《き》せた。
「よき[#「よき」に傍点]は利口《りこう》だから※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、24−9]《ねえ》が處《とこ》に居《ゐ》るんだぞ」お品《しな》はいつた。おつぎは自分《じぶん》の筵《むしろ》の上《うへ》へ抱《だ》いて行《い》つた。おつぎの手《て》は落葉《おちば》の埃《ほこり》で汚《よご》れて居《ゐ》た。再《ふたゝ》び庖丁《はうちやう》を持《も》つた時《とき》大根《だいこ》には指《ゆび》の趾《あと》がついた。おつぎは其《その》手《て》を半纏《はんてん》で拭《ぬぐ》つた。與吉《よきち》は側《そば》で刻《きざ》まれた大根《だいこ》へ手《て》を出《だ》す。
「危險《あぶねえ》よ、さあ此《これ》でも持《も》つて居《ゐ》ろ」おつぎは切《き》り掛《か》けの大根《だいこ》をやつた。與吉《よきち》は直《すぐ》にそれを噛《か》ぢつた。
「辛《から》くて仕《し》やうあんめえなよき[#「よき」に傍点]は」おつぎは甘《あま》やかすやうにいつた。お品《しな》にはそれが能《よ》く聞《きこ》えて二人《ふたり》がどんなことをして居《ゐ》るのかゞ分《わか》つた。お品《しな》の耳《みゝ》には續《つゞ》いて
「ぽうんとしたか、そらそつちへ行《い》つちやつた」といふ聲《こゑ》がしたかと思《おも》ふと
「こんだはぽうんとすんぢやねえかんな」といふ聲《こゑ》やそれから又《また》
「それ持《も》ち出《だ》すんぢやねえ、聽《き》かねえと此《これ》で切《き》つてやんぞ、赤《あか》まんまが出《で》るぞおゝ痛《いて》え」抔《など》とおつぎのいふのが聞《きこ》えた。其《その》度《たび》に庖丁《はうちやう》の音《おと》が止《や》む。お品《しな》には與吉《よきち》が惡戯《いたづら》をしたり、おつぎが痛《いた》いといつて指《ゆび》を啣《くは》へて見《み》せれば與吉《よきち》も自分《じぶん》の手《て》を口《くち》へ當《あて》て居《ゐ》るのが目《め》に見《み》えるやうである。お品《しな》はおつぎを平常《ふだん》から八釜敷《やかましく》して居《ゐ》たので餘所《よそ》の子《こ》よりも割合《わりあひ》に動《う
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