石《といし》の破片《かけ》で氷《こほり》を叩《たゝ》いて見《み》た。おつぎは大戸《おほど》を開《あ》け放《はな》して置《お》いたので朝《あさ》の寒《さむ》さが侵入《しんにふ》したのに氣《き》がついて
「おつかあ、寒《さむ》かなかつたか、俺《お》ら知《し》らねえで居《ゐ》た」いひながら大戸《おほど》をがら/\と閉《し》めた。闇《くら》くなつた家《いへ》の内《うち》には竈《かまど》の火《ひ》のみが勢《いきほ》ひよく赤《あか》く立つた。おつぎは
「おゝ冷《つめ》てえ」といひながら竈《かまど》の口《くち》から捲《まく》れて出《で》る※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1−87−64]《ほのほ》へ手《て》を翳《かざ》して
「今朝《けさ》は芋《いも》の水《みづ》氷《こほ》つたんだよ」とお袋《ふくろ》の方《はう》を向《む》いていつた。
「うむ、霜《しも》も降《ふ》つたやうだな」お品《しな》は力《ちから》なくいつた。戸口《とぐち》を後《うしろ》にしてお品《しな》は竈《かまど》の火《ひ》のべろ/\と燃《も》え上《あが》るのを見《み》た。
「何處《どこ》でも眞白《まつしろ》だよ」おつぎは竹《たけ》の火箸《ひばし》で落葉《おちば》を掻《か》き立《た》てながらいつた。
「夜明《よあけ》にひどく冷々《ひや/\》したつけかんな」お品《しな》はいつて一寸《ちよつと》首《くび》を擡《もた》げながら
「俺《お》ら今朝《けさ》はたべたかねえかんな、汝《われ》構《かま》あねえで出來《でき》たらたべた方《はう》がえゝぞ」お品《しな》はいつた。又《また》氷《こほ》つた飯《めし》で雜炊《ざふすゐ》が煮《に》られた。
「おつかあ、ちつとでもやらねえか」おつぎは茶碗《ちやわん》をお袋《ふくろ》の枕元《まくらもと》へ出《だ》した。雜炊《ざふすゐ》の焦《こ》げついたやうな臭《にほ》ひがぷんと鼻《はな》を衝《つ》いた時《とき》お品《しな》は箸《はし》を執《と》つて見《み》ようかと思《おも》つて俯伏《うつぶ》しになつて見《み》たが、直《すぐ》に壓《いや》になつて畢《しま》つた。お品《しな》が動《うご》いたので懷《ふところ》の與吉《よきち》は泣《な》き出《だ》した。お品《しな》は俯伏《うつぶ》した儘《まゝ》乳房《ちぶさ》を含《ふく》ませた。さうして又《また》芋《いも》の串《くし》を拵《こしら》へて持《も》たせた。
お品《し
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