《かみ》さん處《とこ》へも小作《こさく》の借《さがり》も持《も》つて來《き》ねえで濟《す》まねえんですが、嚊《かゝあ》が單衣物《ひてえもの》も質《しち》に入《せ》えてたの出《だ》して遣《や》つたんでがすがね、畑《はたけ》へなんぞ出《で》んのにや餘《あんま》り過《す》ぎ物《もの》なんだが、それ一|枚《めえ》切《き》りだからわしも構《かま》あねえで見《み》てんのせ、そんだがお内儀《かみ》さん奇態《きたえ》に汚《よご》しあんせんかんね」勘次《かんじ》は最後《さいご》の一|語《ご》に力《ちから》を入《い》れていつた。
「さうだよ、さうして遣《や》れば勵《はげ》みが違《ちが》ふからね」内儀《かみ》さんはいつて又《また》
「おつぎも能《よ》く働《はたら》けるやうに成《な》つたね、それだが此《こ》の間《あひだ》のやうな處《ところ》を見《み》ると死《し》んだお品《しな》が乘《の》り移《うつ》つたかと思《おも》ふやうさね」
「わしもはあ、あれがこたあ魂消《たまげ》てつことあんでがすがね」
「さういつちや何《なん》だがお品《しな》も隨分《ずゐぶん》お前《まへ》ぢや意地《いぢ》燒《や》いて苦勞《くらう》したことも有《あ》るからね」
「へえ、わしやはあ可怖《おつかな》くつて仕《し》やうねえんですから、わし出《で》らんねえ處《ところ》へは嚊《かゝあ》ばかり出《で》え/\仕《し》たんでがすから」
「さうだつけねえ」内儀《かみ》さんは微笑《びせう》して
「おつぎは心持《こゝろもち》までお袋《ふくろ》の方《はう》だね、お前《まへ》の※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、153−2]《あね》だがおつたはあゝいふ性質《たち》なのに一つ腹《はら》から出《で》ても違《ちが》ふもんだね」
「わし等《ら》※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、153−4]《あね》はお内儀《かみ》さん、碌《ろく》でなしですかんね」彼《かれ》は恥《は》ぢてさうして自分《じぶん》を庇護《かば》ふやうに其《そ》の※[#「姉」の正字、「女+※[#第3水準1−85−57]のつくり」、153−4]《あね》といふのを卑下《くさ》して僻《ひが》んだやうな苦笑《くせう》を敢《あへ》てした。
「おつたは今《いま》何處《どこ》に居《ゐ》るね」
「下《しも》の方《ほう》に居《ゐ》あんすがね、わ
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