して遮《さへぎ》つて居《ゐ》る密樹《みつじゆ》の梢《こずゑ》を透《とほ》してどこからか日《ひ》が地上《ちじやう》に光《ひかり》を投《な》げて居《ゐ》るやうなものであつた。彼等《かれら》の心《こゝろ》は唯《たゞ》明《あか》るかつたのである。
 お品《しな》は十九の春《はる》に懷胎《くわいたい》した。自分《じぶん》でもそれは暫《しばら》く知《し》らずに居《ゐ》た。季節《きせつ》が段々《だん/\》ぽかついて、仕事《しごと》には單衣《ひとへもの》でなければならぬ頃《ころ》に成《な》つたので女同士《をんなどうし》の目《め》は隱《かく》しおほせないやうに成《な》つた。お袋《ふくろ》はお品《しな》をまだ子供《こども》のやうに思《おも》つて迂濶《うくわつ》にそれを心付《こゝろづ》かなかつた。本當《ほんたう》にさうだと思《おも》つた時《とき》はお品《しな》は間《ま》もなく肩《かた》で息《いき》するやうに成《な》つた。さうして身體《からだ》がもう棄《す》てゝ置《お》けない場合《ばあひ》に成《な》つたので兩方《りやうはう》の姻戚《みより》の者《もの》でごた/\と協議《けふぎ》が起《おこ》つた。勘次《かんじ》もお品《しな》も其《その》時《とき》互《たがひ》に相《あひ》慕《した》ふ心《こゝろ》が鰾膠《にべ》の如《ごと》く強《つよ》かつた。彼等《かれら》は惡戲者《いたづらもの》に水《みづ》をさゝれて慌《あわ》てた機會《はづみ》に或《ある》夜《よ》遁《に》げ出《だ》して畢《しま》つた。それは、此《こ》の儘《まゝ》では二人《ふたり》は迚《と》ても添《そ》はされぬ容子《ようす》だからどうしても一《ひと》つに成《な》らうといふのならば何處《どこ》へか二人《ふたり》で身《み》を隱《かく》すのである。さうして愈《いよ/\》となれば俺《おれ》がどうにでも其處《そこ》は始末《しまつ》をつけて遣《や》るから、何《なん》でも愚圖《ぐづ》/\して居《ゐ》ちや駄目《だめ》だとお品《しな》の心《こゝろ》を教唆《そゝ》つたのであつた。お品《しな》から一|心《しん》に勘次《かんじ》へ迫《せま》つた。勘次《かんじ》は其《そ》の頃《ころ》からお品《しな》のいふなりに成《な》るのであつた。二人《ふたり》は遠《とほ》くは行《ゆ》けないので、隣村《となりむら》の知合《しりあひ》へ身《み》を投《とう》じた。兩方《りやうはう》の姻戚《み
前へ 次へ
全478ページ中66ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング