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痺れたる手枕解きて外をみれば雨打ち亂し潮の霧飛ぶ

噛みさ噛み疾風は潮をいぶく處《ど》に衣も疊もぬれにけるかも

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二十六日、漸くにして晴る、やどは松林のほとりにひとり離れて建てられたるが、道も庭も松葉散り敷きてあたりは狼藉たり
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木に絡む糸瓜の花は此の朝は萎えてさきぬ痛みたるらむ

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おなじく松林のほとり、少し隔てゝ壁くづれ落ちてかつかつも住みなしたるあり、けさは殊に凄じきさまに
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しめりたる松葉を竈《くど》に焚くけぶり糸瓜の花にまつはりてけぬ

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二十七日、宮崎にのがる、明くれば大淀川のほとりを※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]ふ
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朝まだき涼しくわたる橋の上に霧島低く沈みたり見ゆ

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三十一日、内海の港より船に乘りて吹毛井といふところにつく、次の日は朝の程に鵜戸の窟にまうでゝ其の日ひと日は樓上にいねてやすらふ
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手枕に疊のあとのこちたきに幾時われは眠りたるらむ

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懶き身をおこしてやがて呆然として遠く目を放つ
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うるはしき鵜戸《うど》の入江の懷にかへる舟かも沖に帆は滿つ

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渚にちかく檐を掩ひて一樹の松そばだちたるが、枕のほとりいつしか落葉のこぼれたるをみる
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松の葉を吹き込むかぜの涼しきに咽びてわれはさめにけらしも

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二日、油津の港へつきて更に飫肥にいたる、枕流亭にやどる、欄のもと僅に芋をつくりたるあり心を惹く
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ころぶせば枕に響く淺川に芋洗ふ子もが月白くうけり

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四日、油津の港より乘りて外の浦といふところへわたる、漸くにして探しあてたるはわびしき宿なれども靜かなる入江もみえたれば、もとより戸は立てしめず、閾の際に枕したれば月はまどかにして蚊帳のうちをうかゞふ
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※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]越しに雨のしぶきの冷たきに二たびめざめ明けにけるかも

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六日、波荒き海上を折生迫の漁村にもどる、此の夜おもひつゞくることありてふくるまで眠らず
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草に棄てし西瓜の種が隱《こも》りなく松虫きこゆ海の鳴る夜に

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八日、陰晴定めなき季節のならはし、雨をり/\はげしく障子を打つ
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横しぶく雨のしげきに戸を立てゝ今宵は虫はきこえざるらむ

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九日、再び時化になりたればまた宮崎にのがる、人のもとにて梨瓜といふを皿に盛りてすゝめらる、此の地方西瓜と共に瓜を産することおびたゞし
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瓜むくと幼き時ゆせしがごと竪さに割かば尚うまからむ

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十三日、漸く折生迫にもどれば同人の手紙などとゞきて居たるを一つ/\と披きみてはくりかへしつゝ
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とこしへに慰もる人もあらなくに枕に潮のをらぶ夜は憂し

むらぎもの心はもとな遮莫をとめのことは暫し語らず

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夜は苦しき眠りに落つるまで、虫の聲々あはれに懷しく
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こほろぎのしめらに鳴けば鬼灯の庭のくまみをおもひつゝ聽く

こほろぎはひたすら物に怖れどもおのれ健かに草に居て鳴く

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十四日
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蝕ばみて鬼灯赤き草むらに朝は嗽ひの水すてにけり

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午に近くたま/\海岸をさまよふ
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草村にさける南瓜の花共に疲れてたゆきこほろぎの聲

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海もくまなく晴れたれば、あたりは只一時に目をひらきたるがごとし
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鯛とると舟が帆掛けて亂れゝば沖は俄かに濶くなりにけり

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豊後國へわたる船を待たむと此の日内海にいたりてやどる
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此の宵はこほろぎ近し廚なる笊の菜などに居てか鳴くらむ

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十八日、きのふ別府の港につきてけふは大分の郊外に石佛を探り汗ながしてかへれるに、夕近くなりて慌しく肌衣とりいだす
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こゝろよき刺身の皿の紫蘇の實に秋は俄かに冷えいでにけり

     二

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二十二日、博多なる千代の松原にもどりて、また日ごとに病院にかよふ
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此のごろは淺蜊
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