り松がさか動くその雀等は

松蔭の蚊帳釣草にころぶしていさゝか痒き足のばしけり

かくのごと頬すりつけてうなづけば蚊帳釣草も懷しきかも

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窓外
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ポプラーと夾竹桃とならびけり甍を越えてポプラーは高く

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四日深更、月すさまじく冴えたり
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硝子戸を透して※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]に月さしぬあはれといひて起きて見にけり

小夜ふけて竊に蚊帳にさす月を眠れる人は皆知らざらむ

さや/\に※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]の殺げばゆるやかに月の光はゆれて涼しも

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目さめてさま/″\のことを思ふ
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かゝるとき扁蒲畑《ゆふがほばた》に立ちなばとおもひてもみつ今は外に出でず

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七日
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よひ/\に必ずゆがむ白蚊帳に心落ちゐて眠るこのごろ

白蚊帳に夾竹桃をおもひ寄せ只快くその夜ねむりき

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厭はしきは※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]の中の蚊なり
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はかなくもよひ/\毎に蚊の居らぬ※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]なれかしとおもひ乞ひのむ

    鍼の如く 其の四

     一

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七月十七日、構内の松林を※[#「彳+淌のつくり」、第3水準1−84−33]※[#「彳+羊」、第3水準1−84−32]す、煤煙のためなればか、梢のいたく枯燥せるが如きをみる
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油蝉乏しく松に鳴く聲も暑きが故に嗄れにけらしも

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いづれの病棟にもみな看護婦どもの其詰所といふものゝ窓の北蔭にさゝやかなる箱庭の如きをつくりてくさ/″\の草の花など植ゑおけるが、夕毎に三四人づゝおりたちて砂なれば爪こまかなる熊手もて掃き清めなどす、十九日のことなり
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水打てば青鬼灯の袋にも滴りぬらむ黄昏にけり

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かゝる時女どもなればみな/\さゞめきあへるが、ひとり我がために撫子の手折りたるをくれたれば
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牛の乳をのみてほしたる壜ならで※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]すものもなき撫子の花

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此のをみなすべてのものゝ中に野にあるなでしこを第一に好めるよしいひければ
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なでしこの交れる草は悉くやさしからむと我がおもひみし

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壜に活けたるまゝにして
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なでしこの花はみながらさきかへて幾日へぬらむ水減りにけり

なでしこはいまは果敢なき花なれど捨つと言にいへばいたましきかも

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二十日の夜ひとつには暑さたへがたくして夜もすがら眠らず、明方にいたりて蛙の聲を聞く
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快くめざめて聽けと鳴く蛙ねられぬ夜のあけにのみきく

さわやかに鳴くなる蛙たとふれば豆を戸板に轉ばすがごと

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朝のうち必ず一しきりはげしく咳出づることありて苦しむ
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曉の水にひたりて鳴く蛙涼しからんとおもひ汗拭く

     二

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蚊帳釣草を折りて
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暑き日はこちたき草をいとはしみ蚊帳釣草を活けてみにけり

こゝろよく汗の肌にすゞ吹けば蚊帳釣草の髭|殺《そよ》ぎけり

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夜になれば我がためにのみは必ず看護婦の來て※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]をつりてくるゝが例なり
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※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]釣るとかやつり草を外に置くが務めなりける我は痩せにき

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燬くが如き日てりつゞけばすべての病室のつきそひの女ども只洗濯にいそがはし
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粥汁を袋に入れて糊とると絞るがごとく汗はにじめり

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おもひ待てども蝉の聲をきかず
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板のごと糊つけ衣夕まけて松に乾けど蝉も鳴かぬかも

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庭の松の蔭に午後に成れば朝顔の鉢をおくものあり、他の病室の患者の慰めなりといへどもひとの枕のほとり心づかざれば未だみしこともなく
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朝まだき涼しき程の朝顔は藍など濃くてあれなとぞおもふ

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僅に凌ぎよきは朝まだきのみなり
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蚤くひの趾などみつゝ水をもて肌拭くほどは涼しかりけり

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夕に汗を流さんと一杯の
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