終わり]
たま/\は絣のひとへ帶締めてをとめなりけるつゝましさあはれ
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廿四日夜、また不眠に陷る
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いづべゆか雨洩りたゆく聞え來てふけしく夜は沈みけるかも
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小松植ゑたる狹き庭をへだてゝ外科の病棟あり、痛し/\といふかなしき呻きの聲きこゆ
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夜もすがら訴へ泣く聲遠ぞきて明けづきぬらし雨衰へぬ
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廿五日、ベコニヤの花一枝を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]し換ふ、博士の手折られけるなり、白き一輪※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]は同夫人のこれもベコニヤの赤きを活けもておくられけるなり、廿六日の朝看護婦の※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]を外していにけるあとにおもはぬ花一つ散り居たり
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悉く縋りて垂れしベコニヤは散りての花もうつぶしにけり
ちるべくも見えなき花のベコニヤは※[#「巾+廚」、第4水準2−12−1]の裾などふりにけらしも
ベコニヤの白きが一つ落ちにけり土に流れて涼しき朝を
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寢臺の下のくらきを拂ふこともなく看護婦のよひごとに釣りければ蚊帳の中に蚊おほくなりて、此の夜もうつらうつらとしてありけるほどふけゆくまゝに一しきり交々襲ひきたれるに驚く
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ひそやかに蟄さむと止る蚊を打てば手の痺れ居る暫くは安し
聲掛けて耳のあたりにとまる蚊を血を吸ふ故に打ち殺しけり
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七月一日、朝まだきにはじめて草履はきておりたつ、構内に稍ひろき松林あり、近く海をのぞむ
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月見草萎まぬ程と蛙鳴く聲をたづねて松の木の間を
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柵の外には畑ありて南瓜つくることおほし、我酷だこの花を愛す
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唯ひとり南瓜畑の花みつゝこゝろなく我は鼻ほりて居つ
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前後に人もなければ心も濶き松の林に白き浴衣きたりけることの故はなくして只矜りかにうれしく
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朝まだきまだ水つかぬ浴衣だに涼しきおもひ松の間を行く
只一つ松の木の間に白きもの我を涼しと膝抱き居り
ころぶしてみれば梢は遙かな
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