よみおきけるが、今は梢のさやぎも著しく
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窓掛はおほにな引きそ梧桐の嫩葉の雨はしめやかに暮れぬ
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藁蒲團のかたへゆがみたるに身を横たふることも、餘りに日のかさなればその單調なるにたふべくもあらず、まして爽かなる夏の既に行きいたれゝば
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梧桐の夏をすがしみをり/\は疊の上にねまく欲りすも
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熱少したかけれどもたま/\出でありくこともあり
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あかしやの花さく蔭の草むしろねなむと思ふ疲れごゝろに
鍼の如く 其の二
一
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五月二十二日夜、こゝろに苦惱やみがたきこと起りて眠遂におだやかならず
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小夜ふけてあいろもわかず悶ゆれば明日は疲れて復た眠るらむ
おそろしき鏡の中のわが目などおもひうかべぬ眠られぬ夜は
よしといへば水には足はひたせどもいたづらにして小夜ふけにけり
すべもなく髪をさすればさら/\と響きて耳は冴えにけるかも
やはらかきくゝり枕の蕎麥殼も耳にはきしむ身じろぐたびに
ゆくりなく手もておもてを掩へればあな煩はし我が手なれども
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手紙のはしには必ず癒えよと人のいひこすことのしみ/″\とうれしけれど
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ひたすらに病癒えなとおもへども悲しきときは飯減りにけり
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窓外を行く人を見るに、既に夏の衣にかへたるがおほし
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咳き入れば苦しかりけり暫くは襲ねて居らむ單衣欲しけど
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藁蒲團に身をいたはることも七十日にあまりたれど、自らいくばくも快きをおぼえず
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頬の肉落ちぬと人の驚くに落ちけるかもとさすりても見し
いぶせきに明日は剃らなと思ひつゝ髭の剃杭のびにけるかも
二
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物質上の損失はおほくは同情者の手によりて容易に補給せらるべきも、精神上の缺陷は同情者の手によりて凡て直ちに解決せらるべきものなるべからず、如何に深厚の同情と雖も其効果は概ね甚だ僅少なるべきなり、然れども其効果の僅少なるが爲めに遂に人間至高の價値を没却すべからず
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いさゝかのことなりながら痒きとき身にし
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