くりに花なりし菽の莢になりつゝ
[#ここから6字下げ]
車の上にても暑さはげしきに、つくばの山にはノタリといふ雲のかゝりたるを見てちかく雨のふるならむと、少し腹に力もつきたることなれば身も心もいさましく
[#ここで字下げ終わり]
筑波嶺のノタリはまこと雨ふらばもろこし黍の葉も裂くと降れ
其三
[#ここから6字下げ]
明治三十六年八月十日、熊野に入り那智にやどる、庭に彳めば谷を隔てゝ名に負ふ瀧のかゝれるもみゆるに、かうべをめぐらせば熊野の浦はる/″\として限りを知らず、をりしも月の冴えたる夜なりければ涼しさ肌にしみ透るやうに覺えて心地いふべくもあらざりき。ことしまた暑さに向ひて只管この山のすゞみを偲びてその夜のこころになりてよみける歌十首
[#ここで字下げ終わり]
山桑の木ぬれにみゆる眞熊野の海かぎろひて月さしいでぬ
ぬばたまの夜の樹群のしげきうへにさゐ/\落つる那智の白瀧
こゝにしてまともにかゝる白瀧のすゞしきよひの那智山よしも
照る月を山かもさふる白瀧の深谷の木むれいまだみわかず
那智山は山のおもしろいもの葉に月照る庭ゆ瀧見すらくも
なちやまの白瀧みむと
前へ
次へ
全83ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング