迦具土のあらぶるなして忽ちに拂ひ竭さむ夷の限り

恨積む夷をこゝに討たずしてなにするものぞ日本軍は

御軍の捷ちの知らせを隙も落ちず待ちつゝ居れば腕鳴り振ふ

    衣

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アイヌが日常の器具などを陳列せるを見てよめる歌三首
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アイヌ等がアツシの衣は麻の如見ゆ うべしこそ樹の皮裂きて布は織るちふ

アイヌ等がアツシの衣冬さらば綿かも入るゝ蒲のさ穗かも

アイヌ等は皮の衣きて冬獵に行く 鮭の皮を袋にむきし沓はきながら

    くさ/″\の歌

     榛の木の花をよめる歌

つくばねに雪積むみれば榛の木の梢寒けし花はさけども

霜解のみちのはりの木枝毎に花さけりみゆ古殻ながら

はりの木の花さく頃の暖かに白雲浮ぶ空のそくへに

田雀の群れ飛ぶなべに榛の木の立てるも淋し花は咲けども

煤火たきすしたるなせどゆら/\に搖りおもしろき榛の木の花

はりの木の皮もて作る染汁に浸てきと見ゆる榛の木の花

榛の木の花咲く頃を野らの木に鵙の速贄《はやにへ》はやかかり見ゆ

はりの木の花さきしかば土ごもり蛙は啼くも暖き日は

稻莖の小莖がもとに目堀する春まだ寒し榛の木の花

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稻ぐきのもとなどに小さなる穴のあるを堀り返して見れば必ず鰌の潛み居るを人々探り出でゝはあさるなり、これは冬の程よりすることなるが目堀とはいふなり。
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     春季雜咏

淡雪の楢の林に散りくれば松雀が聲は寒しこの日は

筑波嶺に雪は降れども枯菊の刈らず殘れるしたもえに出づ

淺茅生の茅生の朝霜おきゆるみ蓬はもえぬ茅生の淺茅に

枝毎に三また成せる三椏《みつまた》の蕾をみれば蜂の巣の如

春雨のふりの催ひに淺緑染めいでし桑の藁解き放つ

    海底問答

二月八日の眞夜中より
九月にかけて旅順の沖に
砲火熾に交れば、
千五百雷鳴り轟き
八千五百蛟哮え猛び、
世界は眼前に崩壞すべく
思ふばかり凄じかりき。
碧を湛へし海水に、
快げに、遊泳せる鱗《うろくづ》は、
鰭の運動も忙しく、
あてどもなく彷徨ひぬ。
昆布鹿尾菜のゆるやかに
搖れつゝあるも、喫驚と
恐怖のさまを表明せり。
かゝりしかば海の底に、
うち臥し居たる骸骨ども、
齊しくかうべを擡げながら、
うつろの耳を峙てしが、
ばら/\に散亂せる白骨を
綴り合
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