げ]
六月なかば左千夫氏の來状近く山百合氏の來るをいふ、且つ添へていふ、庭前の槐に行々子頻りに鳴くと、兩友閑談の状目に賭るの思あり、乃ち懷をのべて左千夫氏に寄す
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垣の外ははちす田近み慕ひ來て槐の枝に鳴くかよしきり

あしむらに棲める葭剖いかさまに槐の枝に止まりて鳴くらむ

竪川の君棲む庭は狹けれど葭剖鳴かば足らずしもあらじ

五月雨のけならべ降るに庭の木によしきり鳴かば人待つらむか

栗の木の花さく山の雨雲を分けくる人に鳴くかよしきり

みすゞ刈る科野の諏訪は湖に葭剖鳴かむ庭には鳴かじ

稀人を心に我は思へども行きても逢はず葭剖も聞かず

我が庭の杉苔がうへを立ち掃くとそこなる庭の槐をぞおもふ

    諏訪の短歌會 第一會
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九月五日、地藏寺に集る、同人總べて五、後庭密樹の間には清水灑々として石上に落ち、立つて扉を押せば諏訪の湖近く横りて明鏡の如し、此清光を恣にして敢て人員の乏しきを憂へず、題は秋の田、蜻蛉、殘暑、朝草刈
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秋の田のかくめる湖の眞上には鱗なす雲ながく棚引く

武藏野の秋田は濶し椋鳥の筑波嶺さして空に消につゝ(道灌山遠望)

※[#「頭のへん+工」、第4水準2−88−92]豆《さゝげ》干す庭の筵に森の木のかげる夕に飛ぶ赤蜻蛉

水泡よる汀に赤き蓼の穗に去りて又來るおはぐろ蜻蛉

秋の日は水引草の穗に立ちて既に長けど暑き此頃

科野路は蕎麥さく山を辿りきて諏訪の湖邊に暑し此日は

秣刈り霧深山をかへり來て垣根にうれし月見草の花

    同第二會
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七日、布半の樓上に開く、會するもの更に一人を減ず、題は秋の山、霧、灯、秋の菓物
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杉深き溪を出で行けば草山の羊齒の黄葉に晴れ渡る空

鹽谷のや馬飼ふ山の草山ゆ那須野の霧に日のあたる見ゆ(下野鹽原の奥)

山梨の市の瀬村は灯ともさず榾火がもとに夜の業すも(多摩川水源地)

瓜畑に夜を守るともし風さやり桐の葉とりて包むともし灯

黄葉して日に/\散ればなり垂れし庭の梨の木枝の淋しも

二荒山いまだ明けねば關本の圃なる梨は露ながらとる

    羇旅雜咏
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八月十八日、鬼怒川を下りて利根川に出づ、濁流滔々たり、舟運河に入る、
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利根川や漲る水に
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