。とゞろ踏む機足《はたし》とゞろに。織り出づる二十尋布を。春の野の大野の極み。きぬ河の礫が上に。岸廣にはへたる見れば。あやに奇しも。

    檐

[#ここから6字下げ]
睡猫を見てよめる
[#ここで字下げ終わり]

すしたるやわぎへの檐の。丸垂木日さしが上に。さ蕨の背くゝまりつゝ。いをしなすはしき二つ毛。春の夜の心うかれに。夜もすがら背を覓ぎかねて。思ひねにさぬとふものか。あはれ/\汝が人にあらば。味酒の丹頬に笑まひ。藍染の衣きよそひ。ほと/\に戸は叩かむを。夜もすがら背を覓ぎかねて。こゝにしもさぬとふものか。二毛猫汝はも。

    蛤

[#ここから6字下げ]
詠|蛤《うむぎ》歌
[#ここで字下げ終わり]

うまし子をうみ那須山の。苔むすやゆつ岩村に。あり立たす石人男。波の穗に新妻覓ぐと。のるなべに潮沫別きて。うむぎ比賣きさかひ比賣と。ならび立ちみ合ひし時の。弟媛の心ねぢけに。堅繩の目細《まなほそ》網に。兄媛をし二十巻き沈け。埴染の衣にほはし。ひとりのみ山踏む時に。その山の底ひ搖らびて。天遙に火立ち騰らひ。巖根木根ひた燒きしかば。うまし彦石人男。弟媛と共にみ失せぬ。うむき比賣和
前へ 次へ
全73ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング