の夏は來よと文しておこせたる伯母がりとはむ山のあなたに

    秋郊虫

萩こえし垣をまがりて右にをれて根岸すぐればむしぞなくなる

    時雨

水仙の花にむしろもおほひあへず小さき庭をかせ時雨きぬ

    初雪

船にねて船をいづれば曉のはつ雪しろしかけはしの上に
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 明治三十三年


    森

野を行けばたゞに樂しく森行けばことゝしもなく物ぞ偲ばゆ

菅の根のなが/\し日も傾きて上野の森の影よこたはる

    雪中梅

睦月七日寺島村によぎりきて雪かさきたる梅あるをみつ

    竹の里人をおとなひて席上に詠みける歌

歌人の竹の里人おとなへばやまひの牀に繪をかきてあり

荒庭に敷きたる板のかたはらに古鉢ならび赤き花咲く

生垣の杉の木低みとなり屋の庭の植木の青芽ふく見ゆ

茨の木の赤き芽をふく垣の上にちひさき蟲の出でゝ飛ぶ見ゆ

人の家にさへづる雀ガラス戸のそとに來て鳴け病む人のために

ガラス戸の中にうち臥す君のために草萌え出づる春を喜ぶ

古雛をかざりひゝなの繪を掛けしその床の間に向ひてすわりぬ

若草のはつかに萌ゆる庭に來て雀あさりて隣へ飛びぬ
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