いたく慌てて居た。
「あれ落っことしちゃ大変だ、何処へなくしたっけかな」
 尚幾度かそこらを闇にすかしても見た。然しそこらにそれが落ちて居る理由がなかった。彼等は其夜其まま別れて畢えばまだまだ事は惹き起されなかったのである。彼は家に帰れば直ちにそれを発見したのである。彼は忘れて出たのである。其夜彼等が会合したのは全く悪戯のためであった。悪戯は更に彼等の仲間にも行われざるを得なかった。
「そりゃ畑へ落して来たぞ」
 他の一人がいった。
「どこらだんべ」
 落したと思った一人は熱心に聞いた。
「西から三番目の畝だ、おめえが大きいのを抱えた時ちゃらんと音がしたっけが其時は気がつかなかったがあれに相違ねえぞ、こっそり行って探して見ろ」
 太十が復た眠に就いたと思う頃其一人は三番目の畝を志して蜀黍の垣根をそっと破ってはいった。他のものは垣根の外でひそひそと笑いながら見て居た。蚊帳にくるまった時太十は激怒した。蚊帳の釣手を作ってまた横になったが彼は眠れない。自分にも聞かれる程波打った動悸が五分十分と経つうちにだんだん低くなって彼は漸く忌々しさを意識した。そうして彼は西瓜は赤が居ないから盗まれたと考
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