ら其夜うとうととなった。悪戯な村の若い衆が四五人其頃の闇を幸に太十の西瓜を盗もうと謀った。太十の西瓜はこれまで一つも盗まれなかったのである。彼等の手筈はこうであった。二三人は昼間見ておいた西瓜をひっ抱えてすぐ逃げる。他のものは態と太十を起して蚊帳の釣手を切って後から逃げるというのであった。太十は其夜喚んでも容易に返辞がなかった。それ故そういう悪戯さえしなかったならば翌日ただ太十の怒った顔を発見するに過ぎなかったのである。盗んだ西瓜は遙かに隔たった路傍の草の中で割られた。彼等は膝へ打ちつけて割った。そうして指の先で刳っては食った。水分があとに残って滓ばかりになっても彼等は頓着せぬ。彼等には西瓜の味よりも寧ろうまく盗んだことが愉快に思われるのである。こうして汚れた西瓜の無残な形骸が処々の草の中に発見されるのである。西瓜がなくなって雑談に耽りはじめた時
「あれ」
と一人が喫驚したようにいった。
「どうした」
「何だ」
罪を犯した彼等は等しく耳を欹てた。其一人は頻りに帯のあたりを探って居る。
「何だ」
「どうした」
他のものは又等しく折返して聞いた。
「銭入どうかしっちゃった」
其の声は
前へ
次へ
全33ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長塚 節 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング