れるには此衣物を貸してくれるのだといつた。瀧にはさつきから二三人打たれて居る。白い布がふら/\と振れるやうに落ちかゝる瀧の水は其二三人の頭から分れて斜に飛び散つて居る。人々は大聲を出して呶鳴りながら打たれて居る。瀧へかゝるにはふどうオ/\と尻を引いて呶鳴りながらかゝるのだと柘植氏が教へる。余も柘植氏のあとから呶鳴りながら打たれはじめた。瀧壺がないから水が淺い。おづ/\かゝると突きのめされる。峭壁に後を向けてうんと力を入れる。それでも肩のあたりを攫へて突き倒されるやうな感じのする水の勢である。余は呼吸のつまらぬやうに兩腕を額で組んで後へ倚りかゝるやうにして水勢に抵抗する。更に向き直つて峭壁の瘤につかまりながら打たれつゝ瀧の端からはじまで過ぎて行く。瀧の幅は幾らもないがそれでも行きぬけるのには隨分骨が折れる。一打ち打たせて出ると體がいくらか疲れたやうである。瀧の側に立つて仰いで見ると峭壁の上部からさし出た槭の枝が疾風に吹き撓められるやうに止まずさわ/\と動いて居る。槭の葉はまだ青いのである。余等は肌衣を搾つて女に渡す。見ると柘植氏の皮膚が赤くなつて居る。更に自分の肩のあたりを見ると冷水摩擦
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