、
けさの歌を麓へおくる、週報の課題が春雨で麓が選者が[#「選者が」はママ]ある、二三日前に七首おくつてあるからこれで十五首になつた、跡からまた五首作つて二十首にしやうと思ふ、
夜父と母と水海道よりかへる、妹の嫁入仕度に箪笥長持などを誂へに行つたのである、手箱、金盥、傘など買つて來た、妹仕立物に忙し、
鷄宵時をつくる、母心配す、
この日綿入一枚を脱く[#「脱く」はママ]、
牛乳二合、
三月三日、火曜、快晴、
起床冷水浴、風が吹くので冷たい、
食慾なし、腹こなしに村外れの畑の中を鬼怒川の土手へ出で一まはりした、十五六町ばかりである、途中鍬を擔いで行くもの三四人に逢ふ、桐の木に止まつて居た鴉が麥の上を掠めるやうにして遙かにさきの木に移つた、そこにも鴉が一羽止まつて居た、低い木であつた、土手の篠笹の中に冬菜のやうな形をした赤い草が地にひつゝいて居た、
朝飯九時過ぎ、
午後、玉村へ行く、皆葉の渡しで薄紅梅の開きかけたのを一輪つまみ取つて船へ乘つた、その蕾を鼻へあてて※[#「均」のつくり、第3水準1−14−75]をかいて居ると稍々傾いた日のさし方で自分の影が船底へ映る、花をつまんだ指と指とが丸い輪をなして映つて居る、そしてそれが舳先の向きやうで小べりへ移つたり水の上へ移つたりして居る、水へ移つた時はゆら/\と搖れる、
北の方には烟がむら/\と立ち登つてるのが見える、藁を燒く節でもないのにと思つてると船頭が火事はどこでしやうといつた、さうして下栗あたりでもあるかなどゝ獨言をした、もうさつきから燃えて居るのだといふことだ、
玉村の材木屋へ行つたら店先に時事新報があつた、
二號活字で横濱市の投票結果が出て居る、島田三郎一一〇六票で當選、加藤高明四一八票で落選、それで奥田と加藤との得點を合せても島田には及ばない、なんだか非常に嬉しかつた、
火事は下妻の中學校であると、かみさんがどつからか聞いて來た、秋山が損をするだらう氣の毒だなどゝ話をする、
歸つて來たのはまだ日の高いうちだが風呂が沸いて居た、風呂の中から窓を明けて見ると木小屋の前がよく片付いて心持がよい母が手づから片付けたのださうだ、百舌が一羽下りて枇杷の枝へ飛んだ、枇杷の花はまださいてゐる、
井戸流しで頭を洗ふ、乾いた手水盥の底に鷄の足跡が二つ、
夕方新聞來る、昨日の分と今日の分と一所である、
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