は拇指の爪が非常に延びて居たので其爪の先でぽつり/\と皮をむいて見た。鋲の頭のやうな小粒が一つ/\板の間へ落ちる。博勞は氣の長いことをするのうと見て居たがアヽ庖丁を出すのであつたと此時漸く穢げな庖丁を手でこすりながら出して呉れた。梨はがり/\と石のやうな梨であつた。博勞の娘らしい十三四の子が裏戸から南瓜を抱へてはひつて來た。博勞はあゝ丁度いゝ處だ生憎婆さんが居ないからと自ら立つて爐へ榾を焚きつける。爐は余が居る板の間に近く一段低く造つてある。娘は默つて南瓜を切りはじめる。堅い南瓜は小さな手の力では容易に刄が立たぬ。布巾で庖丁の脊を押したら漸く二つに割れた。娘は自在鍵を一尺ばかり下げて鍋を懸ける。黄色に刻んだ南瓜が鍋一杯に堆くなつて葢はぬれた儘南瓜の上に乘せてある。焔は鍋の尻から四方に別れて鍋蔓の高さまで燃えあがる。遙かなる地の底からでも出るやうな微かな湯氣が黄色な南瓜の中から騰りはじめる。鍋は沸々として煮立つと突き上げられて居た蓋が自ら鍋と平らにさがる。娘は榾の先を長い火箸で突つ崩して榾を先へ出したら焔が一しきり燃えあがつた。娘は小さな躰へ小さな筒袖を着て突き膝をして居る。赤い襟から白
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