も/\けツかりやがらあなんて怒ツて居やがツて、隣のお稻さんらあ帶までこせえたのに、おらほんとに泣きたくなツちやツたツけや、ゆんべらもいくら粟ぶち忙しいツて、晩くまでやらせて、とう/\あたま結はねツちやツた、けさら闇えに起きたツてあたまゆつたりなにつかしたんで、みんな等に待つてられてせか/\してしやうなかツた、そんでもおらへのおつかはわれが野呂間だからなんて怒つてばかし居やがツて、ゆんべ碌に寢ねえから今日はねむくツてしやうがねえ
こんなことを思ひつゝ歩行いてるのではないかなどゝ考へるうちに遠くへ行き過ぎてしまふ、
「けふは降られねえで助かツた、お米さんが單衣物借りてきたんで、汚しちや大變だと思つてなんぼ心配したか知れやしねえ
といひ相なのや
「おらゆんべら、あたまおツこはしちや仕やうねえと思つて夜ツぴてうつぶになツて寢て居たんで、けさら目ぶちが腫れぼツたかツた
といふのや
「足うツちやりたくなツちやツた
といふのやいろ/\が、いづれも澁紙のやうな顏へ思ひ切ツて白粉をこて/\となすり付けて居る、なすり付けたといふよりも、こすり込んだといひたい、さうしてそれが汗をかいて白粉が剥げたといふよりは、すべり落ちたといふ顏つきをして居る、
日の入るのははやいもので、柿の木や樫の木の間からきら/\と光つて見えた光が、中妻を出拔けると、さわ/\と西へ向いて靡いてる芒の穗にかゝつて見える、もう月が出さうなものだなと思つて見ると、いままでは異形な雲に隱れてゞも居たものか、その雲が崩れかゝつて位置をかへると、まんまるな月は三四間も上つて、遙かさきの杉の木のてツぺんに淡い光を放ツてるのであツた、やがて雲はどこへ行つたか無くなツて、月の光はやゝ黄色味を含んで、いさゝか青みを帶びてきた、それと共に芒の穗にかゝつた夕日は穗から葉に、さうして見えなくなツてしまツた、しかしまだ世間はあかるい、その明るい世間が赤く黄色いやうな色に變化して、空の際が一層燒けて、それがだん/\に褪めて、足もとの乾き切つた土が、しら/\と明るいと思ふやうになれば、月の光はうつくしいのである、
草鞋ごしらへの連中も通らなくなる、おしまひに十三四位な小供が二人でよぼ/\やつて來た、
「はやくうちに成ればいゝなあといふ顏をして歩いてる、
遊び仲間で相談が※[#「糸+墨」、第4水準2−84−59]まり、うしろの竹さんも
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