左の肩からめぐして地上二尺ばかりの所で水平に止め、それから右の肩からめぐして二十ばかり振つてやめた、あとの二人も二十ばかり振つた、「持つてごらんなさい重いものぢやありませんと見物人のそばへ持つてきたが、己が振らうといふものは一人もなかつた、棒振がすむと年寄役の老人と神戸との仕合になつた、老人といふのは七十二であるといふ觸れ込みである、パチヽヽと打ち合ひがはじまると、見物の一人が立つた、二人三人と立つた、場中半ばは立つて木戸へ押しよせる、「小手だ一本の小手はどうしたァなどゝ打ち合つて居るのに見物はもう殆んど惚立である、兩劍士の打ち合ははげしいのであるが、木戸の方でも「ろの八だろの八だ、はの五だはの五だ、との四はどうしたんだいと怒鳴るかと思ふと「駄目ですよそう押したつて、そつから出したつてしやうがねえなと叫ぶ、いつの間にか仕合は濟んで、引廻してあつた幔幕が取り除かれる頃やうやく木戸口はすいて來た、「酷いぢやねえか、この棒がぶち折れつちやつた、この力は五人や十人で押した力ぢやねえと木戸番は見物人が押し破つた所を指して呟いた、忙しくてがつかりしたといふ顏付である、外はどこの家でも寢たらしい、[
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