れるものもある、さうしてポカポカ切り込んでも彼はなか/\それを取らない、劍士は迷惑であるが見物人のためには面白いのである、かくして最后の仕合に出たのは興行師の方では神戸なにがしで、とつ手のついた鍋蓋のやうなものを二つ持つて立ち向つた、一つは頭上に翳して一つは胸のあたりに構へた、さうしてぢり/\と敵の方に迫つて行く、相手は勝手が違ふのでうろ/\しながら打ち下した、鍋蓋は受け留るや否や相手の鍔元へ突き入るので、竹刀を構へるいとまもなく逃げ出す、すかさず追つかける、竹刀をかついで逃げまはる、とう/\二つの鍋蓋に押へつけられてしまつた、見物人は一齊ににどよめいた、この仕合がすんで薙刀つかひの女二人の劍舞があつた、劍舞が終ると四人がから手で出だした、長さが六尺ばかりの八角の棒が二本運び出された、眞黒なさうして疣のある太いところは鬼が持つ金棒そつくりである、羽織をつけた男が「これは腰固めに振る棒でありますが、どこへ行つても會員が振りますやうに二十と振るものはないのでありますが、覺[#「覺」に「ママ」の注記]召のあるお方はどうぞ出て腕だめしをなさるやうにと口上を述べると、ならんで立つた二人がぐるつと
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