打ち下した錘が竹刀のほとりに止まつたかと思ふうちに竹刀はぎり/\と卷かれた、もうどうにも手が出まいと見て居ると、いきなり自分の竹刀を捨てゝかたへに落ちてあつた竹刀を拾ひ上げて更に立ち向つた、鎖鎌の地位は不利益になつた一旦からんだものは容易にとれるのでないから鎌のさきには竹刀がぶら下つて居るので自由の働きが出來ない、竹刀の方はその虚につけ入つて奇捷を獲[#「獲」に「ママ」の注記]やうとする、仕方なしに左に持つた木劍で敵の打撃を防ぎながら神戸はぐる/\と場中をめぐつて居るうちつひに狡猾なる相手は竹刀を奮[#「奮」に「ママ」の注記]はれた、時にとつて非常の可笑しさであつたので、見物人は一向に時の移るのも知らずに笑つて見て居るのである、王將が首を撥かれたのでこの勝負は一先つ切り上げて飛入の劍士との仕合があるからしばらく休息といふので、見物人は肩の凝りが解けるといふよりは珍らしい勝負の話に餘念もないありさまである、
「あの鎖鎌を持つたのがこゝではまあ上手なんだ相ですな、
「いやどうもあの挾むのは妙ですな、あれでやられた日にやたまりませんな、だがあの男はからだ中がほり物だらけだ相ですね、なんのため
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