はざつとこんなものであるがこの門について少し話さうならば、これはしばらくになるが出入の大工が連れて來た見すぼらしい爺の設計である、いつもボロドテラを引つかけて居るので一見鼻持もならないのであるがその仲間には聞えた本所竪川の龜といふので磊落不覊とでもいはふか酒ばかり飮んで居る、それに女が好きといふ始末に終へない奴であるが、その女といふても長く持つて居るのではないのでいゝ加減の時になるとすいとわきへ行つて踪跡も分らないといふ、しかも七十にもなる老爺なるに至つては驚かざるを得ない。素より弟子の一人もあらふ筈がない、そんな塩梅[#「塩梅」に「ママ」の注記]だからどんな仕事を仕掛けても心に慊らないことがあればさつさと他に越いて顧ないのであるが幸に近い所に出來た婆さんにしばらく飽きが來なかつたのと、その心持を呑込んで居たのとで閊のあるやうなことはなかつたのである、しかし門の建まへを組立てる頃はとほに例の癖のために居なかつた、こんな變物がどうして世の中を渡れやうかと思ふと腕が拔群であるためにどこへ行つても珍重されるので彼はむしろ心中に苦しみがない、
も一つ言つておくのは門の左右に三兩株の風致を助け
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