てあるのが植木屋の注意である
これが外部から見たところである
西の障子を開けてたら今まで妻想ひにないていた男猫が逃げて行つてしまつた
書院の坐敷の向ふの角はやつぱり戸袋でそこには袖垣がある、これは植木屋が自慢の鎧の威の型だといふこれがすぐ目に付く、その下に客が手水を使ふやうにこしらえた竹の棚がある、その流しが小石を交へた叩きである
袖垣の側にはカリンの木が配合してある、カリンの木の梢は鴨居に防げられて見えぬ、それに小さな青桐が五六本あしらつてあるのが心持ちがよい、それからこれはカリンの木の下に程合の石が据ゑられて八つ手の木のひねびた三尺ばかりなのがその傍に植ゑられて石の上には鐵の燈籠がのつてる、それが一寸の躰の動かしかたで障子にかくれてしまふ、さつきの位置に居て見るのはこれだけである、
曇り加減になつた日がうらゝかにまたさしくるので松葉の濡れたのがほゞ乾いた、
机を椽側へ持ち出す
庭一面が見える
築山が主であるがそのうしろには十五六本の樅の木が大小塩梅して植ゑてある、サツキ見た梢がこれである、樅の木の中にドウダンが一本交つてる、
築山の右手に松の植込が十四五本その四五本がカリンの木に邪魔をされて見える、築山からこの植込へかけて心字形の池があるが水もない、
しかしながら築山や心字形の池が水のないのはおろか松葉がしき込んであつておまけに杉葉などが交つて居るものあるなどに至つてはもはや説明をする勇氣もない、
只さつき梅の間から見た樅の木が十五六本大小塩梅[#「塩梅」に「ママ」の注記]して築山の背に立つてるのが稍々物になりさふである、樅の木の中には小さなドータンが一本交つてる、
アヽコンナ陳腐極まる庭であつても、この松葉が拂はれて箒目の行き屆いた朝芝の青々としたのを見れば全く生命のないものでもない、しかしそれはこの椽側からは左手になつた老梅が散つてしまつて油蟲の防ぎに苦心する頃でなければならぬ
梅の花はまだ散りはじめない[#地から1字上げ](明治三十六年三月)
底本:「長塚節全集 第二巻」春陽堂書店
1977(昭和52)年1月31日発行
※誤植と思われる次の箇所も底本のままに入力しました。数字は底本の頁と行数)
しはらくすると(444−2)、目さはりで(444−9)、先つ(445−8)、椽側(445−11他)、偏つて(445−9)、つゝ
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