杯働いた。叔父も忙しい時に思ひ掛けぬ手が殖えたので窃かに悦んで止めておいた。秋がふけた。さうして稻刈の時節になつた。故郷では俎板へ鼻緒をすげたやうな「ナンバ」といふものを穿かなければ刈れないやうな深田もあるが、こゝでは草履穿きで稻刈が出來る。田の中で稻扱をする。仕事がどれでも愉快である。赤城の山に雪が積んで冬が來た。其時彼等二人の間にはぢつとして居られぬ心配が湧いた。其心配といふのは改まつてのことではないが此頃に成つてどうにもしやうがなくなつたのである。駈落する以前からおすがは身持に成つて居た。おすがも初は我慢をして居たが此頃では體が兎角大儀になつた。叔父も疾からそれは知つて居るが百姓をするものは明日分娩する其晩まで跣足で仕事をする位のことは普通であるのだからそこは少しも苦勞はないのと一つは愈々腹がか、だからといふ時に返してやらなければ彼等雙方の家で仲々引きとるのに故障をいふだらうといふことでおすがには成るたけ樂な仕事をさせて止めて置いた。冬も寒が來て田甫の榛の木には春の用意に蕾がふら/\と垂れはじめた時にもうこゝらでいゝと思案をして叔父は二人を返してよこした。博勞の伊作へも手紙をつけ
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