つて少し高い處へ登つたら肥前の平戸から五島の一部まで見えた。そこには土地の商人らしい人々が六七人で居たが五島あたりの見えるといふことは容易に無いんだ相で其内の何人かは始めて見たと言つて居た。そこらには松があつて土は短い青芝で掩はれて居る。青芝は延びれば皆牛が※[#「手へん+劣」、第3水準1−84−77]つて了ふから何時でも綺麗なのである。牛は到る處に居る。小徑を行くと時としては牛が横に立つて道を塞いで居る。彼等は人が行つたつてちつとも動かうとしない。しい/\と少し位言つたつて駄目である。其筈だらう。島では今漸く田植の終る處で、そつちでもこつちでも馬鹿に百姓が呶鳴つて居る處があるが、それは屹度牛に田を掻かせて居るのだ。此島の樹木は可成多くてさうして翠が深い。其間にそれは山の上の方までさうなんだが淡い緑が交つて居るのは皆大豆畑である。
大豆は大分よく出來るとかで畑といへば九分まで大豆ばかりである。涼しい風が大豆の葉を渡つて吹く夕方に牛は依然のつそりとして草をむしつて居ることがある。畑と畑との間に茨に交た芒をむしつて居るから牛は大豆の葉はたべないのかと思つたら、牛によつて好きなのと嫌ひなの
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