とがあるんだと言つた。牛の立つてる處には地を堰つて茨が白い花を開いて居る。赤い苺がびつしり實《な》つて居る。苺は大分たべた。夫に到る處山桃がある。時々腕白も木になつてる事がある。何處であつたか熊野あたりの神社の謠《うた》であつたが
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山を通れば山桃欲しや、身をも投げかけてゆすらば落ちよ、さてもつれなの山桃や
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 といふのがあつた。記憶の誤りはあると思ふが何でもこんなのであつた。山桃は幾年か前からどんなのかと思つて心にかけて居たが博多で始めてたべて、此處でなつてる處を見た。こゝでは一合が一錢だ相だ。
 今日元寇の難に殉じた少貳資時の墳墓のある瀬戸といふ處へ行つて見た。料理店は無いから木賃宿で飯を食つた。有合の飯は麥八分に米二分であつた。子鯖が三疋、それと朝干した許りだといふ烏賊を燒いてくれた。これは甘かつた。それから五つも燒いて貰つた。それで幾らだと言つたら六錢くれと言つた。生來始めてこんな廉《やす》い勘定を拂つて見た。島の人間は言葉の丁寧なには驚く。
 壹州と言つて一國だが北の勝本から南の郷の浦まで僅に四里、馬車は八臺あるが人力車は郷の浦に四臺きりださうだ。これで全島に人力車が四臺しか無い譯だ。それでついぞ人力車の走るのを見ない。(六月二十九日)[#地から1字上げ](明治四十五年七月四日~五日、國民新聞 所載)



底本:「長塚節全集 第二巻」春陽堂書店
   1977(昭和52)年1月31日発行
入力:林 幸雄
校正:伊藤時也
2000年5月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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