気にはなれず、暗くて気もちのよくない空から降りそそぐ雨に流れそぼちながら、急ぎつづけなくてはならぬような衝動を感じた。
 しばらくは、こんなぐあいにして歩きつづけ、体を動かすことで心の重荷を軽くしようと努力した。自分がどこに居るか、何をしているかもよくわからないで、街々を私は歩きまわった。私の胸は恐怖感のためにどきどきとし、自分の様子をおもいきって眺めることもできず、乱れた足どりで急ぎつづけた。

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怖れおののきながらさびしい道を
 歩む者のように、一度は後を
振り向いて、歩みつづけ、
 二度とはもう振り返らない。
彼は知っているからだ、その後に
 怖ろしい悪鬼が迫っているのを。
        ――コールリッジ「老水夫行」――
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 こうして歩きつづけているうちに、私はとうとう、いろいろな乗合馬車や自家用馬車のいつも停る宿屋のむこう側に出た。どうしてだかわからないが、私がそこに立ちどまると、たちまち街のむこう端からこちらへ近づいてくる四輪馬車が眼にとまった。それがすぐそばに近づいたので、見るとスイスの辻馬車で、ちょうど私の立っているところ
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