私の生いたち


 私の生れはジュネーヴで、私の家柄はこの共和国でも指折りの一つだ。私の先祖は永年、顧問官や長官だったし、父は、いくつもの公職に就き、名誉と名声を得ていた。父は廉直で倦むところなく公務に励んだために、知っている人全部から尊敬された。ずっと若いころは、たえず国事に没頭してすごしたので、事情がいろいろに変ってそのために早く結婚することができず、晩年になってはじめて人の夫となり一家の父となった。
 父の結婚の事情は、父の性格をよくあらわしているので、私はそれをお話しないわけにはいかない。父のいちばん親しい友人のなかにひとりの商人があったが、この人は、はじめはたいへん繁昌していたのに、いろいろと不しあわせがかさなって、貧窮のどん底に落ちてしまった。ボーフォールと称するその人は、傲岸不屈の気性をもっていて、以前には身分と豪華さとで人の口をひいた同じ国で、貧乏な、世に忘れられた生活をつづけることにはとうてい堪えられなかった。そこで、りっぱに負債を払いあげてから、娘をつれてリュセルンの町に姿を隠し、人に知られずに、みじめなくらしをすることになった。私の父はボーフォールに対して、すこし
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