したのか、とつぜん私から離れ去った。見れば鷲の飛ぶよりも速く山を馳け降り、起伏する氷の海のあいだにたちまち見えなくなった。
 怪物の話はまる一日かかり、そいつが立ち去ったころには、太陽が地平線とすれすれになっていた。まもなく暗やみに包まれるので、急いで谷間に降りていかなければならないことはわかっていたが、心が重く、歩みははかどらなかった。山の細道を曲りくねって辿り、進むのにいちいち足を踏みしめるつらさに、昼間の出来事で興奮していた私は、すっかり悩まされた。途中の休憩する所まで来て山のふもとに腰を下ろした時には、もうすっかり夜ふけだった。雲が掠めて通るあいまあいまに星が輝き、黒い松の木が眼の前に立ち、地面にはどこにもここにも折れた木か倒れていた。それは驚くほど厳かな場面であって、私の心に奇妙な感じを起させた。私はさめざめと泣き、苦悶のあまり手を握りしめて叫んだ、「おお! 星よ、雲よ、風よ、おまえらはみな私を嘲ろうとしている。ほんとうに僕を憫れむなら、感覚や記憶を叩きこわしてくれ。僕を無に還らせてくれ。が、それもできないなら、行ってしまえ、行ってしまえ、そして暗やみのなかに僕を置いていけ。
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