もの仕事をかたずけたあとで、アラビアの婦人は、老人のすぐ前に腰かけて、ギターを取りあげ、心も溶ろけるほど美しい曲をいくつか弾いたが、それを聞くと、わたしの眼から悲しみと歓びの涙が同時にこぼれた。この人が歌うと、その声が森の夜鶯のように、あるいは溢れ高まり、あるいは絶えだえとなって、豊かな抑揚で流れ出した。
「客人が歌い終ると、ギターをアガータにわたしたが、アガータははじめそれを辞退した。アガータは単純な曲を弾き、美しい声調でそれに合せたか、客人の珍らしい歌とは違っていた。老人はほれぼれとして聞いていたらしく、何か喋ると、それをアガータがサフィーにほねおって説明してやったが、これは、あなたの音楽のおかげでたいへん楽しい思いをしたということを、表わそうとしているらしかった。
「それからというものは、家の人たちの顔に悲しみに代って喜びが浮んだことだけが変ったほかは、毎日毎日が、前と同じく平和に過ぎていった。サフィーはいつも楽しく幸福だった。サフィーとわたしは、たちまちのうちに単語をいろいろおぼえこみ、二箇月も経つと、わたしは家の人たちの話すことばがたいていわかるようになってきた。
「そのあい
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