いうことを怖れるのだ。
 クレンペ氏のほうは、こんなにおとなしく済むわけにはいかなかった。そのとき、ほとんど神経過敏の状態に陥っていた私には、その無遠慮な讃辞が、ヴァルトマン氏の慈愛にみちた称讃よりもかえって苦しかった。教授は叫んだ、「こいつめは、ね、クレルヴァル君、たしかにわしらを追いぬいてしまったんですよ。やれやれ、いくらでも眼を円くしなさいよ。しかし、これは事実なんだ。二、三年前にはコルネリウス・アグリッパを福音書同様に固く信じていた若者が、今ではこの大学の先頭に立っているんだ。この男を早くやっつけないことにゃ、わしらはみな顔色なしですよ――やれやれ。」私が苦しそうな顔つきをしでいるのを見て、教授は言いつづけた、「フランケンシュタイン君は控え目でね。若い人としてすぐれた性質をもっていますよ。若い人たちは遠慮がちがいいですなあ、クレルヴァル君。わしだって若いころはそうだったが、どうも永続きしなくてね。」
 グレンペ氏は今度は自慢話を始めたので、さいわいに私を苦しめる問題から話が逸れていった。
 クレルヴァルは自然科学に対する私の趣味に同感したことがなかったので、その文学的探究は、私
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