ものも私の運命を変えることはできないのです。私の来歴をお聞きください。そしたら、それかどんなに取りかえしのつかぬように決定されているかが、おわかりでしょうから。」
そこでその人は、明日からおひまな時に物語を始めようと言いました。この約束に、僕は厚く厚く感謝しました。毎晩、どうしても手ばなせない仕事がある時のほかは、この人が昼間話したことをできるだけそのことばのままに記録しようと決心しました。用事で忙しければ、すくなくとも覚え書きを取っておこうとおもいます。この原稿にはずいぶん、あなたもお喜びになるにちがいありませんが、この人を知り、この人自身の口からそれを聞く身にとっては、将来いつか、どんな興味と同感をもってそれを読むことだろうとおもいます。僕か日課を始める今でさえ、音吐朗々たるその声が耳にひびき、そのうるおいのある眼がけだるい甘美さを帯びて僕を見ています。魂の内部から輝いた顔をして元気よく手をあげるのが見えるのです。この物語は、世にもふしぎな、そして人の心を傷つけるものにちがいありません。雄々しい船をついに押し包んて難破させたあらしのすさまじさ――それはこうして!
1 私の生いたち
私の生れはジュネーヴで、私の家柄はこの共和国でも指折りの一つだ。私の先祖は永年、顧問官や長官だったし、父は、いくつもの公職に就き、名誉と名声を得ていた。父は廉直で倦むところなく公務に励んだために、知っている人全部から尊敬された。ずっと若いころは、たえず国事に没頭してすごしたので、事情がいろいろに変ってそのために早く結婚することができず、晩年になってはじめて人の夫となり一家の父となった。
父の結婚の事情は、父の性格をよくあらわしているので、私はそれをお話しないわけにはいかない。父のいちばん親しい友人のなかにひとりの商人があったが、この人は、はじめはたいへん繁昌していたのに、いろいろと不しあわせがかさなって、貧窮のどん底に落ちてしまった。ボーフォールと称するその人は、傲岸不屈の気性をもっていて、以前には身分と豪華さとで人の口をひいた同じ国で、貧乏な、世に忘れられた生活をつづけることにはとうてい堪えられなかった。そこで、りっぱに負債を払いあげてから、娘をつれてリュセルンの町に姿を隠し、人に知られずに、みじめなくらしをすることになった。私の父はボーフォールに対して、すこし
前へ
次へ
全197ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
シェリー メアリー・ウォルストンクラフト の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング