「ウォルトン隊長、あなたには、この私が、大きな、たとえようもない不運に虐まれていることが、すぐおわりになるでしょう。一度は私も、こういう禍の記憶を自分もろとも殺してしまおうと決心しましたが、あなたに負けて、この決心を変えることにしました。あなたも、私がもとそうだったように、知識と智慧を求めていらっしゃるが、その願いの叶うことが、私のばあいのように、あなたに咬みつく毒蛇とならないことを熱心に望むのです。私の災難をお話しすることが、おやくにたつかどうかはわかりません。けれども、あなたが私と同じ通すじを辿り、私をこんなふうにしてしまった同じ危険にさらされておいでになるのをふりかえってみると、私の身の上ばなしからひとつの適切な教訓を汲み取られるだろうと想像するのですよ。それは、あなたの計画がうまくいくとしたら、手引きになるでしょうし、また、失敗したばあいは、慰めになるでしょう。ただ、普通ならば奇怪なことと考えられることをお話しするのですから、どうぞそのつもりでお聞きください。私たちがもっと温和な自然のなかにいるのでしたら、信用されるどころかむしろ笑い出されるおそれがありますが、こういった荒凉たる神秘的な土地にあっては、千変万化する自然力のことを知らない人たちの笑い草になるようないろいろのことも、ありそうなことに見えてくるものです。それに私の話そのものが、そのなかに出てくる事件がほんとうだということを、ひきつづきお伝えしている、ということだけは、疑いようもないことなのです。」
 僕がこのうちあけ話を聞いてたいへんありがたく思ったことは、あなたも容易に想像がつくでしょうが、ただこの人が、自分の不しあわせを語ることで悲しみを新たにするのは、堪えられないことです。一つには好奇心から、また一つには、僕でできることなら、この人の運命をよくしてあげたいという強い欲求から、それこそ熱心にその約束の物語を聞かせてもらうことにし、そういう感情を揺さずにあいてを促しました。
「御同情には感謝しますが、」とその人は答え、「それは無用です。私の運命はほとんど終りました。私は、一つの出来事を待っているだけで、それが済んだら安らかに休息します。……お心もちはわかりますが、」と、口をはさみたがっている僕に気づいて話しつづけました、「そう申しあげてよかったら、あなたはまちがっていらっしゃいますよ。どんな
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