機を與へたのであります。あの書を讀むと、諸動物間に行はれる相互扶助は人間界に行はれるそれよりも一層純粹に本能的であつて有力であり、その點から言へば、少くとも今日の人間界は或る動物より遙かに退歩したものと言へるのであります。人間でも古代の人間の方が近代人よりは一層純一であり、道義的であつたと言へるのであります。それはカ翁の『自我の分裂』の歴史『人類墮落の意義』と對照して、深い考察點を指示するものであります。わたしは新世界の鐵の扉が開かれたやうな氣持で眼を見ひらきました。
次に獄中で讀んだ書物中でわたしを喜ばしたのは『古事記』でした。わたしの第一に驚いたのは、古事記の言葉使ひが自由であること、從つて如何にも豐富であること、思想と言葉とが自由で自然で豐富であつて、その中に含まれた事實には寒帶地から熱帶地に及ぶ多くの地方色が伺はれること等これでありました。わたしの『古事記神話の新研究』の萠芽はこの時から生起したのであります。
こんな譯で、わたしの巣鴨監獄における生活は可なり多忙でありました。思想生活に於て右にのべたやうに繁忙であつた上に、赤衣を着て屡※[#二の字点、1−2−22]裁判所に引
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