生には注意して人道に獻身せねばならないのですが、それすら翁にとつては自然生活であつて、特殊の問題ではありませんでした、翁は世俗の人から見れば非常に特殊な人物ですが、翁においてはそのすべてが自然でありました。畸人だの、義人だのといふ名稱は、翁においては如何にも不似合に感じられます。あるひはこの自然人としての翁こそ實は非常な異色をなすものであるかも知れません。翁は天成の無政府主義者でありました。
 私が田中翁に尾して熱心に奔走したことは、時の政權にとつていささか眼ざはりになつたと見えて、わたしの身邊に樣々な黒い手が伸べられてきました。それは田中翁自身に對しても久しい間試みられたことですから、當然のことともいへるでありませう。それは買收の奸策であります。翁の買收額は十萬圓、二十萬圓、三十萬圓と時とともに騰貴して行きました。正當な方法では、あの政府の罪惡を國民の前にかくすことができないのであります。何とかして、どんなくらい醜い方法を以てしても、資本と政權との抱合による大罪惡を隱ぺいしたいのです。田中翁の周圍にゐた栃木縣の政治家達は大部分が買收され、遂には翁を強制的に幽閉して、收賄の罪名を被らし
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