こには自ら哲学が潜んで居ります。然るに、東京はたゞ利益を支配のために出来た都会で、少しも美を発見することは出来ません。
フランスにパンテオンといふ立派なお寺がありますが、こゝには国家の功労者の死骸が沢山祭つてあります。先は亡くなつた社会党のジヤン・ジヨレスの死骸もこゝに祭られました。この寺が出来る時のことであります。技師が見事なひさし[#「ひさし」に傍点]を考案してくつゝけた処、どうしたはずみか完成に近づいた時、突然落ち潰れて了いました。それを見た技師は驚き且嘆いてその結果死んでしまつたのであります。一つのひさし[#「ひさし」に傍点]にもこれだけの真心をこめてゐた技師の心は何と羨しいではありませんか。更に私が感心することは、その後を受けついだ技師が、前任技師の設計をそのまゝ用ひて寸分違はずに前任者の計画通りに実現したといふことであります。もし後任技師が支配慾の強い人であつたならば、必ず前任者の案を葬り自分の設計を用ひたであらうと思ひます。実に美くしい名工の心であります。
昨夜も小山〔四三〕君に聞いたのですが、小山君の着物はお母様の手織ださうであります。その純な色と模様とは実に立派なものであります。どんな田舎にもこんな立派なものがあるのに、地方の人たちは何故これに気づかないで醜い反物を三越などから求めるのでありませうか。これ明かに資本主義から来た間違つた思想に支配されるからであります。然るに茲に面白いことは、貴族の奥様方なぞになると、あのケバ/\しい柄合ひの反物を憎んで態々大金をかけて、手織縞の様な反物を求め、そして自分の優越感を満足して居ります。之が真に審美観から来たものならば結構でありますが、そうでない。唯だ自分が一般人よりも渋いもので而も高価なものを身に着けてゐるといふ誇りを感じたい為に過ぎないのであります。然るに渋さを誇らんが為に計らずも田舎縞、手織縞に帰着する点が実に面白いと思ひます。田舎のお媼《ばあ》さんが何の技巧も用ゐずに唯丈夫にしやうと織り出した反物が、却て貴族方の美的模範となるのは不思議の様であるが、実は自然の勝利であります。自分が材料を作り、自分が意匠をこらして、自分の手で織り上げる、それはどんなに美しい価値のある仕事でありましやうか。
然るに前に言つた様な無益な非美的なことが到る所に無数に行はれてゐるのでありますが、真の自治生活はこんな間違
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