化の一新紀元が劃《かく》せられた。美の領域に於ける太子の偉業は今日から見て実に世界大なものがある。
 聖徳太子の日本美顕揚の御遺蹟は現に大和法隆寺に不滅の光を放っている。太子は比類なき聡明《そうめい》な知性を持たせられたと同時に極まりなき美の感性に富ませられ、又実に即決即断の明快な技術的手腕をも兼備させられた。太子の美的直覚の鋭く強く、決然として日本美の中核を把握せられてあやまるところなく、多くの外来の高僧や優秀な帰化工人等の意見を吟味させられ、取るべきは取り捨つべきは捨て、豊饒《ほうじょう》な大陸文化を十分に摂取しながら、よく日本独特の美の源泉を濁らしめず、現場の技術者等をも用捨なく指揮統率あらせられた御姿は実に颯爽《さっそう》たるものであった。
 推古天皇十五年、太子によって建立せられた法隆寺の建築そのものが既にただの大陸寺院建築の模倣ではなく、立派な日本的理念の表現に基いているのは言う迄もないが、今問題にしようとする金堂壁画の美に至ってはますますその感を深くする。金堂四面の壁にそれぞれ画かれた浄土変相の図は大規模な模写事業が現今行われていたりして、既に説明を要しないほど世間に知れ
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