蔵している。われわれ民族のものはそういう曲折を内に持たない。常に真正面から深く入りこんだ含蓄性、幽玄性なのである。写真の「深井」は中年の女性の美とさびしさと、その人生的な味いとを魂もろとも遺憾なく表現している。此写真を見ていると、いつしらず人間界の深い、遠いところに明滅する美の発光体を心に感ずる。「深井」に限らず、能面の美の牽引性《けんいんせい》はすべて造型と精神との一身同体から来ている。美の日本的源泉としての斯かる含蓄性は今後まるで違った芸術的表現の上にも大きな要素として生きるであろう。
底本:「昭和文学全集第4巻」小学館
1989(平成元)年4月1日初版第1刷発行
1994(平成5)年9月10日初版第2刷発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2006年11月20日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全8ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
高村 光太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング