き朽ちる草草や
声を発する日の光や
無限に動く雲のむれや
ありあまる雷霆《らいてい》や
雨や水や
緑や赤や青や黄や
世界にふき出る勢力を
無駄づかひと何《ど》うして言へよう
あなたは私に躍り
私はあなたにうたひ
刻刻の生を一ぱいに歩むのだ
本を抛《なげう》つ刹那の私と
本を開く刹那の私と
私の量は同《おんな》じだ
空疎な精励と
空疎な遊惰とを
私に関して聯想してはいけない
愛する心のはちきれた時
あなたは私に会ひに来る
すべてを棄て、すべてをのり超え
すべてをふみにじり
又嬉嬉として

[#天から27字下げ]大正二・二
[#改ページ]

  人類の泉

世界がわかわかしい緑になつて
青い雨がまた降つて来ます
この雨の音が
むらがり起る生物のいのちのあらわれとなつて
いつも私を堪《たま》らなくおびやかすのです
そして私のいきり立つ魂は
私を乗り超え私を脱《のが》れて
づんづんと私を作つてゆくのです
いま死んで いま生れるのです
二時が三時になり
青葉のさきから又も若葉の萌《も》え出すやうに
今日もこの魂の加速度を
自分ながら胸一ぱいに感じてゐました
そして極度の静寂をたもつて
ぢつと坐つ
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