て落ちている。これを見つけた時の子供らのよろこびが眼に見えるようだ。子供らがアケビを食べれば、牛や馬はハギを食う。この荳科《まめか》の植物がよほど好きと見えて牛や馬の飼料に部落の人たちはハギを刈って山のようにかついでゆく。ハギは山野に生いしげるが、ここのはいわゆるヤマハギで赤の色がややうすい。わたくしはミヤギノハギの根を移植して小屋のまわりに繁茂させた。これは赤が濃い。ハギは実に強い草で、落葉を肥料にしてよく育ち、秋にはまっ赤な花を無数につけ、その中に白のまじる風情はすばらしい。白花のハギを殊に牛馬は好むという。その外、秋の野山で目立つのは繖形科《さんけいか》の花である。タラの木、ウドなどは巨大な花茎をぬいて空に灰白色を花火のようにひらいている。高山植物に属する花々もそこらにちらばっていて、秋はうっかり路もあるけない。
 うっかり路もあるけないといえば、秋にはマムシが殊に多い。マムシは夏の頃にはおとなしいが秋には気が荒くなるらしく、しばしば攻勢に出る。よく路ばたにとぐろをまいて控えているが、これにあんまり接近するといきなり飛びつく。とぐろを巻くのは攻撃態勢というものらしい。岩手ではマム
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